『軍事民論』第738号(7月1日発行)…10頁
陸上自衛隊が見た米海兵沿岸連隊(MLR)の戦い方―陸上自衛隊教育訓練研究本部「教訓詳報」より―
2023年1月11日、ワシントンDCにおいて日米防衛及び外務トップによる日米安全保障協議委員会(SCC)が開かれた。同協議では、沖縄に駐留する第12海兵連隊(第3海兵師団隷下)が2025年までに第12海兵沿岸連隊(Marine Littoral Regiment: MLR)に改編されることで合意された。
MLRは、米海兵隊の新たな作戦構想である「機動展開前進基地作戦」*1(Expeditionary Advanced Base Operations: EABO)の中核となる部隊である*2。EABOとは、敵の射程圏内に小規模部隊を前方展開して戦うというものだ。
EABOやMLRに関して言及した論文等は海上自衛隊関係者の執筆がほとんどだが、実は陸上自衛隊もこれらについて強く関心を寄せていたことが本会の情報公開請求により防衛省が開示した陸自部内資料から分かった。
それらを紹介する前に、米海兵隊がこれらを採用するに至った背景について説明したい。
2010年以降、アフガン戦争及びイラク戦争からの撤退後、米国の外交・安保政策の重点はアジアに移行、このために米軍の作戦環境は中国のA2/AD脅威下に置かれることになった。
こうした状況を受けて、米海軍と海兵隊は各種の作戦コンセプトを模索する中で、2017年に「競争的な環境における沿岸作戦」(Littoral Operations in a Contested Environment: LOCE)構想を公表した。そして同構想の中で「沿海域における侵略行為を抑止する持続的な海上拒否能力を前方に確立する」というエンドステート(End State)*3を示すと共に、海軍の「Distributed Lethality」(分散海上作戦〔Distributed Maritime Operation: DMO〕の前身と言えるもの)と海兵隊のEABOでこれを支えることを明らかにした。
また、海兵隊は2020年3月に海兵隊が目指すべき将来のビジョンを提示した「戦力設計2030」(Force Design 2030)を発表し、編成、訓練、装備の本格的な見直しを明らかにした。この中で、将来の米海軍の作戦コンセプトの中核となるのが、海軍のDMOとそれに関連する海兵隊及び海軍のLOCEとEABO(並びにEABOから派生したスタンドイン部隊〔Stand-in Forces: SIF〕)であるとしている。そしてこの中で新設が明らかにされたMarine Littoral Regimentは、これらコンセプトのテスト及び実証の役割が与えられている。
更に海兵隊はEABOコンセプトの検討を進め、2021年2月に「機動展開前進基地暫定教範」(Tentative Manual for Expeditionary Advanced Base Operations: TM-EABO)を定め、同年12月にはEABOの中心的要素の1つである「スタンドイン部隊に関するコンセプト」(A Concept for Stand-in Forces)を発表した。
「スタンドイン部隊に関するコンセプト」は、敵火力下での海兵隊の戦い方の指針と言うことができる。そして最初にMLR改編が行われた第3海兵連隊(ハワイ)は、2022年3月に第3MLRに「名称変更」された後、2023年9月25日~28日にはSIFとしての能力を確認するために行われた戦力デザイン統合演習を経て初期作戦能力(initial operational capability)達成が確認された*4ことからも、同コンセプトに示されている内容は、MLRの戦い方であると言える。
現在陸自は、日米共同対処能力の維持・向上の観点から米海兵隊のEABO及びSIF*5と、自らの領域横断作戦との連携向上を目指している*6。その一環として、日米共同訓練を通じて海兵隊のこれらコンセプトの理解を図っているのである。
この度、陸自及び米海兵隊との共同訓練「レゾリュート・ドラゴン21」に関する陸自の部内文書が開示されたので、本号では開示文書*7からSIF及びEABOについて取り上げた箇所を抜粋・紹介する。
*1 論文等では「遠征前方基地作戦」と訳されることが多いが、防衛省・自衛隊の部内資料ではこの訳が当てられているので、本稿ではこちらの用語を使用する。
*2 (資料番号:23.5.22-1)「在日米軍の態勢の最適化について」(2023年1月 防衛省・外務省)2頁。なお資料番号とは、所蔵資料の整理のために本会が任意で付けた番号。
*3 司令官の目標達成を規定する、一連の所望の状況(Source: JP 3-0)。
*4 (資料番号:24.2.15-1)「インド太平洋における米軍の軍事態勢と課題①―米海兵隊の作戦コンセプトと日本および周辺における近年の演習を中心に」『NIDSコメンタリー』(防衛研究所)第297号(2024年2月2日)8頁。
*5 (資料番号:24.5.5-2)「最近の米軍の戦略構想について」(2021年11月19日 防衛政策局調査課戦略情報分析室)によれば、「SIFには同盟国等の部隊も含まれ、特に同盟国等の要素が重要」(12頁)とのことから、我が国では陸自が最も影響を受けるものと思われる。
*7 (資料番号:24.5.20-1)「令和3年度国内における米海兵隊との共同訓練(RD21)に係る教訓詳報」(教訓研本訓第31号(令和4年3月24日)別冊)。
本資料は、「教訓業務に関する達」(陸上自衛隊達第61-9号)に基づき作成されたもので、レゾリュート・ドラゴン21において収集した教訓を整理し、今後の課題を提言したもの。「EABOに関する基本的理解や問題認識を構築すると同時に、陸上自衛隊の運用、防衛力整備、研究開発、教育訓練等を通じた陸上防衛力の強化に速やかにつながる教訓を少しでも多く収集することを主眼」(5頁)として実施された。
(記事紹介)
【スタンドイン部隊】
教訓詳報が教訓収集の前提として米海兵隊作戦コンセプトの概要を紹介したうちのスタンドイン部隊に関する記述を抜粋したものである。
【EABOに関する陸自教訓収集】
陸自が今後EABOに関する教訓収集を行う上での考え方をまとめたものを抜粋した。
なお(不開示)とあるのは、防衛省の不開示決定により墨消しの措置が施された箇所である。不開示の長さに関係なく一律に表示した。
【「レゾリュート・ドラゴン」(Resolute Dragon〔不屈の龍〕)採用の理由】
同コードネームの由来について教訓詳報の解説。 【発表と異なる米海兵隊ヘリの射撃要領】
レゾリュート・ドラゴン21における矢臼別演習場でのヘリの射撃要領が、広報での説明と実態とが異なることが陸自部内資料から明らかになった。
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