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領土防空から敵領土空爆へ                              専守防衛から大転換した航空作戦ドクトリン―統合教範「対航空作戦」

  • 軍事問題研究会編集
  • 5月28日
  • 読了時間: 6分

更新日:5月29日

『軍事民論』第757号 (2025年5月30日) …5頁。 領土防空から敵領土空爆へ                             

専守防衛から大転換した航空作戦ドクトリン―統合教範「対航空作戦」

 いわゆる「安保3文書」の改定(2022年12月)に伴い新たに盛り込まれた「反撃能力」に関しては、長距離ミサイルといったハード面に注目が集まりがちだ。

 しかしソフト面も既に大きな転換が図られていた。それが航空作戦ドクトリンの改定だ。統合幕僚監部が策定する統合教範の1つ「防空作戦教範(2011年3月29日)(注1)が、「対航空作戦(2023年3月15日)(注2)へと改定されたのだ。

 「対航空作戦」は、同作戦に関する自衛隊の統合運用に関して定めたドクトリンである。航空自衛隊にも航空作戦に関する教範が存在するが、統合教範は空自教範より高次に位置付けられる。

 その改定の肝は、作戦範囲をそれまでの我が国周辺(領土防空)から「戦域」(敵領土空爆)へと踏み出したことだ。なお管見の限り、教範に「戦域」という用語が登場したのは「対航空作戦」が初めてだ。

 中谷 防衛相が今年3月末のヘグセス米国防長官との会談で、東シナ海や南シナ海、朝鮮半島を中心とした地域を一体の「戦域」と捉え、日米が同志国と共に防衛協力を強化する「ワンシアター(一つの戦域)」構想を伝えたと報じられているが(『朝日新聞』)、これは単なる政治家の思い付き発言ではなく、作戦ドクトリンの裏付けがあってのことだったのだ。

 それゆえ「対航空作戦」においては、その攻撃対象が『防衛白書』のポンチ絵(「反撃能力(イメージ図)」)が説明するような敵弾道ミサイル発射台にとどまらず、飛行場(注3)・指揮統制・インフラにまで及ぶ(下図参照)。即ち(現段階におけるその能力の有無はいずれにせよ)航空部隊による敵領土空爆を作戦構想としていることをドクトリンは示しているのである。

 意外に思われるかもしれないが、これまでの航空作戦ドクトリンは専守防衛という政府見解を遵守していた。

 例えば「防空作戦教範」は、作戦の意義を「主として侵攻する敵航空戦力の撃破等により敵の空からの妨害を局限し、我が防護対象を防護する作戦」(1頁)、またその特性を「我が国及び同周辺区域における作戦」(2頁)であると述べ、その作戦範囲が他国に及ぶことがないことを明らかにしている。

 また空自の作戦ドクトリンである「航空作戦」(注4)でも、空自の行う航空作戦を「政経中枢、作戦基地等を防護するとともに、(中略)我が国及びその周辺における航空優勢を獲得することを主眼として航空作戦を遂行」(10頁)するものとしており、その作戦範囲は他国に及ばない。

 ところが「対航空作戦」では、湾岸戦争での航空作戦を彷彿させるような、攻撃作戦(AO:Attack Operation)、敵防空網制圧(SEAD:Suppression of Enemy Air Defense)、戦闘機による護衛(FE:Fighter Escort)、戦闘機による掃討(FS:Fighter Sweep)を通じて「敵の航空及びミサイル脅威(不開示)(注5)をその発進・発射の前後を問わず可能な限りその発進・発射地点に近い場所で無力化する作戦である。この作戦の目標は発進・発射前に対処を完了することである」(2頁)として、敵領土への空爆の企図を露わにしたのだ。

 敵航空戦力の破砕を目的とした戦術的な航空作戦を「対航空」(Counter Air)という。これは更に攻勢対航空(Offensive Counter Air: OCA)と防勢対航空(Defensive Counter Air: DCA)に区分される。DCAを空自では「防空」と称している(注6)。管見の限りでは、OCAはこれまで自衛隊ドクトリンでは採用されていなかった概念で、「対航空作戦」において初めて導入されたものと思われる。

 OCAは、敵領土内に積極的に進出してその地上にある航空戦力(弾道ミサイル等も含む)を破壊するのが役割だ。前述の通り、OCAの目標は敵の航空機及びミサイルの「発進・発射前に対処を完了する」―即ち先制攻撃であり、攻撃対象はそれらを支援するインフラにまで及ぶ。

 また既に本誌で紹介している通り、集団的自衛権に基づけば反撃能力(敵基地攻撃)は我が国平時から行使できる(『軍事民論』第733号)。存立危機事態の認定と共に、敵領土への攻撃が可能となるのだ。果たしてこれが専守防衛の範囲内と言えるのだろうか。

 現時点で空自が単独で敵領土への攻撃が可能であるかは不明だが、米軍と共にであれば既にその準備を終えている。

 過去には米空軍主催「レッド・フラッグ・アラスカ」演習で空自F-15戦闘機が、米戦略爆撃機B-52を護衛(Escort)する訓練を極秘裏に行っていたが(注7)、今日自衛隊はそうした訓練を隠そうともしていない(「日米共同訓練の実施について」)

 訓練実績(「核爆撃機との訓練急増」)から空自は米戦略爆撃機のFighter Escortを行う技能を既に有していると見て良いだろう。米戦略爆撃機の護衛戦闘を行うことで空自は、敵領土への空爆の一端を担うことが可能となったのだ。

 本号では、こうした問題を孕んでいる統合教範「対航空作戦」から攻勢対航空作戦計画の概要を説明した箇所を抜粋・紹介する。

(注1) (資料番号:20.10.25-1)統合教範13-0「防空作戦教範」(統合幕僚監部 2011年3月29日)。なお資料番号とは、整理・保存のために本会が任意で付けた番号。

(注2) (資料番号:25.5.21-1)統合教範3-1「対航空作戦」(2023年3月15日 統合幕僚監部)

(注3) 対象が飛行場(airfield)であって、航空基地(military airfield, airbase)となっていないのは、軍民共用空港もその対象としているからであろう。

(注4) (資料番号:18.10.24-1)航空自衛隊教範02-1「航空作戦」(2016年6月 航空幕僚監部)

(注5) 防衛省による一部不開示により墨消しとされた箇所。

(注6) (資料番号:18.10.24-1)8頁。

(注7) 「ニュース:空自F-15、米戦略爆撃機B-52を援護―『レッド・フラッグ・アラスカ』演習」(2013年7月24日配信)

【関連バックナンバー】

『軍事民論』第660号 ここをクリック

『軍事民論』第733号ここをクリック

『軍事民論』第745号ここをクリック


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