「日本関係船舶の安全確保に必要な情報を収集する」*1ために中東に派遣された海上自衛隊水上部隊が現地でイラン軍の動向を偵察・監視していたことが、本会の情報公開請求により防衛省が開示した活動報告書で明らかになった。
政府は、野党の合同ヒアリング(2020年1月22日)において、情報収集活動の対象にはイラン軍やイラン革命防衛隊の艦船なども含まれ、そうした情報を米軍に提供することを明らかにしていたが*2、部内資料からその事実が裏付けられた。
その活動報告書が第5次派遣情報収集活動水上部隊がまとめた「中東地域における情報収集活動任務終了報告」(5護隊第131号(令和3年10月30日)別冊)【以下「①文書」】だ。
またこの偵察・監視は「中東地域における日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集活動(SHAMSHIR 20)作戦計画第1号」(自艦隊作第268号(令和2年1月31日)別冊)【以下「②文書」】に基づいて行われた模様だ。SHAMSHIRとは、中東で見られる、わずかに曲がった細身の片刃の刀剣を指しているものと思われる。
①文書には、イラン軍の動向を偵察・監視していた記録が掲載されている【③④がその抜粋】。またこれら動向の情報はデータリンクを通じて米軍に提供されている疑いが、②文書の別紙K【⑤がその抜粋】掲載の関連文書Nから明らかになった。TDLとはTactical Data Linkの略称*3で、戦術データリンクのことだ。
①及び②文書から明らかになった事実から以下のことが言える。
(1) 中東派遣部隊はイラン軍の動向を偵察・監視している。
(2) 政府は、当地での情報収集を一貫して「活動」と称して、軍事行動のイメージの払拭に余念がないが、海上自衛隊では(1)の理由からこの情報収集を軍事作戦と位置付けている。
(3) イラン軍の動向はデータリンクを通じて米軍に提供されている疑いがある。なおデータリンクを通じての米軍への情報提供は、安倍首相(当時)が国会答弁で否定していた*4。
以下、これらの意味するところを他の自衛隊部内資料を手がかりに説明したい。
*1「中東地域における日本関係船舶の安全確保に関する政府の取組について」(2019年12月27日 国家安全保障会議決定 閣議決定)。
*3 海上自衛隊訓練資料第258号「海上自衛隊日米用語対訳集」1401頁。
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【関連バックナンバー】
本誌第658号「中東派遣部隊の『情報収集活動』はイランに対する偵察である」*ここをクリックすると抜粋(PDFファイル)がダウンロードできます。
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防衛省 中東派遣航空部隊のソマリア領空進入(閣議決定違反)を認める *ここをクリック
日本とソマリアが中東派遣航空隊の領空飛行で密約―外務省が認める *ここをクリック
海自による中東での情報収集は「活動」ではなく、「軍事作戦」である―作戦計画が開示 *ここをクリック
「海自中東派遣関連資料集(2)」(2022年)
中東派遣部隊の活動に関して防衛省に情報公開請求を行った結果、同省より関連する行政文書計343件の開示を受けました(文書リストはここをクリックするとPDFファイルでダウンロードできます)。
ここから資料性の高いものを抜粋してまとめたのが、以下の資料集(資料は全てPDFファイル)です。
なお情報公開請求により開示されたものですので、資料の一部には不開示(墨消し)箇所がございますので、予めご承知おき下さい。
「海自中東派遣関連資料集(2)」(2022年) *詳細はここをクリックするとPDFファイルがダウンロードできます。
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資料1:「国会用想定集(令和元年11月6日ver.)」…83頁 *抜粋はここをクリック
資料2:「対外想定(情報収集態勢強化のための自衛隊アセットの活用)」…21頁
資料3:「我が国に関係する船舶の安全確保に関する政府の取組について」(2019年12月 内閣官房 外務省 防衛省)…23頁
資料4:「中東地域への自衛隊派遣検討に関する国会・報道等での主な論点」…27頁 *抜粋はここをクリック
資料5:「中央海軍/第5艦隊/CMF(連合海上部隊)/CTF Sentinelの指揮統制図と連絡官等の配置」…2頁
資料6:「【対外応答要領】米国「海洋安保イニシアティブ」の下での司令部発足」…4頁
資料7:「『IMSCに参加しない』が『米国と連携する』ことについて」…4頁
資料8:「IMSC不参加想定」…1頁
資料9:「ジブチ共和国における日本国の自衛隊等の地位に関する日本国政府とジブチ共和国政府との間の交換公文」(2009年4月3日)…24頁
資料10:「派遣飛行隊定時報告」…3頁
資料11:「派遣艦艇活動報告」…3頁
以 上
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