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  • 軍事問題研究会編集

防衛省部内資料から見た統合作戦司令部の論点

『軍事民論』第740号(9月1日)…11頁

防衛省部内資料から見た統合作戦司令部の論点

〔解説:「指揮」下になくとも米軍の命令は下る…それが「作戦統制」〕

 日本政府が統合作戦司令部の創設を、これを受けて米政府が在日米軍の統合司令部化をそれぞれ決定したことから、自衛隊が米軍の指揮下に入るのではないかとの懸念の声が高まっている。

 結論から言えば、筆者は自衛隊が米軍の指揮下に入ることはないが、作戦統制下に入ることは間違いないと考えている。ただし自衛隊が米軍の命令を受けるという点では、指揮も作戦統制も違いがない。

 統合訓練資料1-5「統合用語集」では、両者を以下の通り定義している。

指揮

 「指揮権を与えられた個人が、その権限に基づき、部隊、機関又は個人に対し意志を表示し、その意志に従わせることをいう」(Ⅰ-37頁)

作戦統制

 「特定の指揮官等(統制者)が、指揮系統にない他の部隊等(被統制者)を統制することをいう」(Ⅰ-35頁)

 指揮と作戦統制の違いは、指揮がその指揮系統下にある者に対して、作戦統制は指揮系統下にない者を対象にしていることだ。このことから両者には次の効力の違いがある

 上級者は指揮下(正確には自衛隊法上の「指揮監督下」)にある下級者に対して懲戒権を持つので(「任命権に関する訓令の運用(通達)」(防人1第3291号 18.3.31))、指揮に従わない下級者を懲戒処分することができる。すなわち懲戒権によって指揮の実効性を担保するわけだ。これに対して作戦統制を行う上級者は、その統制下にある(しかし指揮下にはない)下級者に対して懲戒権を持たないので、従わない下級者を処分できない(改正地方自治法における国の「指示権」と同じ)。ただし作戦統制であっても、命令の効力が弱いだけで、「あの敵艦艇を撃て」という命令それ自体はできるのだ。

 こうした点に関して海上自衛隊OBが筆者に以下の見立てを披露してくれた。

 日米共同作戦が発動された場合、海自部隊の一部には米空母機動部隊を護衛せよという命令が防衛大臣から下される。これにより受命部隊は米空母機動部隊の戦闘陣形の一部を構成し、その作戦統制下に入ることとなろう。この場合でも制度上はその海自部隊の指揮権は日本が握っている……と。

 以上の理解を得た上で、本号では来年には創設される自衛隊の統合作戦司令部を巡る防衛省・自衛隊内での論点について紹介したい。

 まず紹介するのが、防衛省が今年度の予算関連法案の国会質問に備えて作成した想定問答集である「令和6年度予算関連法案基本想定(防衛省)に一章設けられた「3.常設の統合司令部(統合作戦司令(仮称))の創設関係」からの抜粋である。

 ここからは、同司令部の自衛隊法上の問題点を知ることができる。

 次に紹介するのが「米軍における指揮統制関係(防衛研究所平成29年度特別研究成果報告書)から米軍の指揮統制を巡る日米間の調整上の問題点を取り上げた項目からの抜粋である。

 米軍の「指揮統制」概念が自衛隊にはないことに代表されるように、日米間では指揮に関わる規定がそれぞれ異なる。同報告書では、そうした違いから生じる日米間の指揮関係の齟齬をどのように埋め合わせるかについて提言が行われている。日米の統合司令部が今後直面する課題がここに記されている。

 なお「特別研究」とは、内部部局、統合幕僚監部及び防衛装備庁の要請を受け、防衛政策の立案及び遂行に寄与することを目的に実施する調査研究をいう(平成11年防衛研究所達第1号「防衛研究所の調査研究に関する達」)。つまり防衛省・自衛隊は、既にこの時期から統合作戦司令部の創設を視野に入れていたのである。

 なおいずれの抜粋も原文にある脚注は全て省略した。

【空母機動部隊の陣形の一例】

【出典】(資料番号:12.3.15-1)「航空宇宙技術動向が航空防衛に及ぼす影響に関する研究(将来長射程対艦誘導弾)」(開発集団研4号(22.6.28)別冊付録第4)38頁。


【関連バックナンバー】

『軍事民論』第735号(4月30日発行) ここをクリック

米軍が規定する他国間共同作戦での指揮系統―防研部内研究より

8月月例研「共同作戦と指揮系統」レジュメここをクリック

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