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米国の懸念は存立危機事態から重要影響事態への日本の後退―防研主任研究官の論考

軍事問題研究会編集

 重要影響事態への我が国の介入が、存立危機事態武力攻撃事態へのエスカレーションを招くとの懸念は特に安保法制に反対する側から表明されている(注1)

 こうした懸念は「日本的視点」からの見方であり、第三者的視点(米側視点)からは異なる懸念があることを千々和 泰明 防衛研究所戦史研究センター安全保障政策史研究室主任研究官が「日米同盟の地政学」で指摘しているので紹介したい。

 同氏は、重要影響事態から存立危機事態や武力攻撃事態までの一連の事態対処の中で、日本への武力攻撃が止み、同盟国への攻撃が存立危機事態に該当するまでに至らないと判断されたが、同盟国への攻撃が続いている場合が日米同盟の危機と指摘する。

 この場合、法律の手続きでは武力攻撃事態や存立危機事態の対処措置は終了するが(注2)、引き続き重要影響事態として米軍の後方支援を行うこととなる。だがこうした対応は米側からは「戦線離脱」と受け取られると指摘する(同書***~***頁)

 こうした戦線離脱の例として同氏は、第一次世界大戦における連合国側にいたロシアがドイツと単独で休戦したことや、第二次世界大戦における枢軸国イタリアがドイツに無断で連合国側と休戦(イタリア国民にとっては喜ばしいことと思われるが)したことを挙げている。

 そしてこうした戦線離脱が元同盟国側からの攻撃(第二次大戦おいては独に降伏した仏が英から、連合国側に降伏した伊が独から)を招いたことからも、日本が米国の意向に反して単独講和を行うことは「戦後」の日米同盟に取り返しのつかないダメージを負わせると警鐘を鳴らすのである(同書***~***頁)

 同氏の指摘から、日米がそれぞれ近く創設する統合司令部にもう1つの見方を加えることができよう。同司令部については日米の作戦の一体化が指摘されるが、それと同時に自衛隊の戦線離脱をとどめるグリップとして役割が浮かび上がるのだ。

(編集部注)出典の頁は本会会員のみ別途案内済み。


(注1) 安保法制に賛成する立場でもこのエスカレーションを当然視している。【重要影響事態、存立危機事態、武力攻撃事態の関係】「守るべき人がいる 佐藤正久オフィシャルブログ」。

(注2) 存立危機事態に関する防衛省省内検討資料では、「(事態対処法)第2条第8号ハの『存立危機事態を終結させるためにその推移に応じて実施する次に掲げる措置』の『終結』の意味いかん」との設問に対して、以下の通り自答している。

 (前略)第2条第8号ハの「存立危機事態を終結させるためにその推移に応じて実施する次に掲げる措置」の「終結」とは、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がなくなること」であり、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」の全てが終結することを意味するものではない。

【出典】(資料番号:23.2.1-4)「論点 第2条第8号ハの『存立危機事態を終結させるためにその推移に応じて実施する次に掲げる措置』の『終結』の意味いかん。」。なお資料番号とは資料の整理・保存ために本会が任意で付けた番号である。


(関連情報)

第569号*抜粋はここをクリック

重 要 影 響 事 態 法 が 発 動 さ れ る と 日 本 は 交 戦 国 と 見 な さ れ る

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