□『軍事民論』第711号(3月2日発行)…8頁
昨年12月に改定された「国家安全保障戦略」は、新たな脅威として「軍事目的遂行のために軍事的な手段と非軍事的な手段を組み合わせるハイブリッド戦が、今後更に洗練された形で実施される可能性が高い」との認識を示している。
ハイブリッド戦については、以前から制服サイドでは対処の必要性が叫ばれていた。
防衛省・自衛隊のシンクタンクである防衛研究所は2019年に国際シンポジウム「新しい戦略環境と陸上防衛力の役割」を開催した。この第2セッションで「島嶼防衛における陸上防衛力の役割と有用性」と題して講演した岩田 清文 元陸上幕僚長は、島嶼防衛の将来戦においては「情報操作や政治工作、経済的圧力など非軍事手段と軍事手段を組み合わせて戦争目的の達成を企図するハイブリッド戦への対応も極めて重要」(シンポジウム報告書105頁)と指摘している。
2014年のクリミア併合・ウクライナ紛争等の戦訓から近い将来予想し得るハイブリッド戦とは、電子戦、フェイクニュース、国内敵親派勢力の活用による住民投票等、国家のあらゆる機能を総合的、有機的に活用して、我が国の政治指導者に対し戦わずして敗戦を認識させる戦いであり(106~107頁)、これらの妨害活動からの離島住民の防護が重要になるという。
ハイブリッド戦に代表される非軍事的手段による妨害活動を自衛隊では、「謀略活動」、「敵性行為」等と称しており、これらは主に陸上自衛隊の情報科職種が対応する。
現在、防衛省・自衛隊は、台湾有事を念頭に南西諸島への部隊配備を進めている。そして岩田 元陸幕長が指摘するように、台湾有事には、我が国島嶼への侵攻に先立ちハイブリッド戦が仕掛けられると彼らは懸念している。
そこで本号では、陸自情報科部隊における運用の基本原則及び指揮実行の要領を定めた「情報科運用(試行案)」(陸上自衛隊教範3-02-16-01-29-0)から離島防衛作戦に関する箇所を抜粋・紹介する。陸自がハイブリッド戦における謀略活動にどのように対処するのかを知る一端になれば幸いである。
なお文中に(不開示)とあるのは、一部不開示決定の措置として防衛省により墨消しされた箇所で、その長さにかかわりなく一律に表記している。
【今回のテーマのキーワード】
国内勢力:部隊所在地周辺及び行動が予想される地域において、我が使命の達成を阻害し、またはその恐れのある中核となる勢力及びこれに同調する勢力。
敵性行為:敵国の軍隊またはその他の外国の軍隊による国の独立、平和または安全を害する行為もしくは外国から行われるこれらに準ずる行為。(自国民による上記に準ずる行為を含めて用いることがある。)
敵性情報活動:我に関する情報を取得するため、敵及び国内勢力が行う情報活動をいい、諜報、その他あらゆる手段をもって行われる。
謀略:戦争又は作戦の遂行に利するよう転覆活動又は妨業をすることをいう。この活動は、多くの場合、非合法手段によって行われる。
利用工作:反自衛隊勢力が隊員等を利用する目的をもって海上自衛隊内にその勢力を扶植する行為をいい、獲得、潜入、組織化に区分される。
保全:
〔海自〕我が使命(任務)の遂行(達成)を阻害する敵性情報、謀略活動を、各種手段により早期に探知し、予防し、もしくは無力化する一連の状態を包括的に示す概念である。
〔陸自〕平戦両時を問わず、安全の脅威を構成する敵あるいは敵性者の情報活動、暴力活動を防止し、また無力化して部隊の安全を確保することである。
〔空自〕敵及び敵性勢力の情報、謀略活動を無力化し、それらの情報活動から我が情報を、謀略活動から人、物、施設、組織機能等を防護するためのあらゆる活動をいう。
防衛省・自衛隊のシンクタンクである防衛研究所は、2019年1月30日に国際シンポジウム「新しい戦略環境と陸上防衛力の役割」を開催した。 以 上
【出典】「保全活動-保全活動の内容スタディーガイド」(海上自衛隊第2術科学校教育第2部情報教官室)。海上自衛隊「情報課程」(2006年度)で使用されたテキスト。同課程では、隊員保全や基地警備情報等を担当する保全要員の教育も行っている。
第711号掲載:ニュース「防研シンポで島嶼防衛を巡り『島内反対派が流すデマ等により民意が誘導』―元陸幕長発言」
防衛省・自衛隊のシンクタンクである防衛研究所主催の国際シンポジウムにおいて、元陸幕長が島嶼防衛における陸上自衛隊の役割を報告した際に、「島内反対派が流すデマ等により民意が誘導され易い」と発表していたことが明らかになった。
【関連ニュース】
軍問研ニュース(2022年3月8日)「反戦運動の探知・無力化を図る陸自マニュアル―『情報科運用(試行案)』」
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