『軍事民論』第745号(1月6日)…10頁
防衛省部内資料から知る「集団的自衛権行使とターゲティング」
防衛省は、「防衛力整備計画」(2022年12月16日 国家安全保障会議決定 閣議決定)において「相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力を反撃能力として用いる」(4頁)ことを決定、長距離ミサイルの取得を進めている。
そしてこの反撃能力は我が国単独で行使されることはない。「弾道ミサイルなどの対処と同様に、日米が協力して対処していく」(注)こととなっているからだ。つまり反撃能力は日米共同―集団的自衛権の行使―を前提としているのである。
日本の反撃能力(長距離ミサイル)を日米共同で使用する場合、最大の問題点は目標選択である。
台湾有事であれ、朝鮮有事であれ、日本としては我が国に飛来する弾道ミサイル等の策源地を叩くために使いたいとしても、米軍は他の優先度の高い目標を狙いたいかもしれない。そして現時点では、目標情報の全てを米軍が握っている。
攻撃目標の選択に関するプロセスを米軍ではターゲティング(Targeting)と称している。
そしてこの用語は、我が国では2023年版『防衛白書』226頁に突然現れた。それ以前の白書では日米共同で行うのはISR(Intelligence, Surveillance and Reconnaissance:情報収集・警戒監視・偵察)とされていたのだが、2023年版ではISRT(情報収集・警戒監視・偵察・ターゲティング)となったのだ。
2022年版以前の白書ではISRとされていたのは、「日米防衛協力のための指針」において日米協力を行うとされているのが、ISRだからだ。つまり現行の指針を改定することなく、日米協力がターゲティングへと深化したのである。
このような重要な変更にも関わらず、ターゲティングについて白書は何の説明もしていない。
そこで本号では、防衛省部内資料からターゲティングの実像を紹介する。
(注) (資料番号:23.1.27-1)「反撃能力について」(2022年12月 防衛省)12頁。内閣法制局が安保3文書関連で開示したもの。同局の応接録(ここをクリック)から、防衛省が同局へ提出したものと分かる。
(掲載記事)
ターゲティングに関する基礎事項
【資料1】は、空自独自のシンクタンクである航空自衛隊幹部学校航空研究センターが部内に頒布している研究メモだ。
本記事は、米軍統合教範「Joint Targeting」(Joint Publication 3-60)の概要を紹介したもので、このうちターゲティングに関する基礎事項について解説された箇所を抜粋した。
ターゲティングには予め設定された目標を狙うものとのイメージがあるが、米軍のドクトリンには「予期しないターゲット」(unanticipated targets)という概念があり、作戦状況に応じて目標を突然設定することも当然の前提となっている。
米軍が目標情報の全てを握っている状況において、自衛隊が米軍から目標を突然提示された場合、その可否を主体的に判断できるのかが今後問われるであろう。
「反撃能力」における日米協力
本記事は、「反撃能力について」(【資料2】)から反撃能力に関する日米の役割分担と日米共同対処の項目を抜粋した。
集団的自衛権行使ができることで可能となった日米の情報交換
日米の情報交換に関しては、攻撃目標情報の交換が集団的自衛権との絡みでこれまで問題になってきた。
しかしながら、集団的自衛権の容認により交換が可能になった情報はそれにとどまらないことが、【資料3】から明らかになった。言い換えると、共同作戦に必要な情報交換は目標情報以外にも多岐にわたることをこの文書は教えてくれるのである。
同文書は、本会による安保法制関連文書の情報公開請求で防衛省が開示した中に含まれていたもので、国会審議における答弁資料として作成されたものと思われる。
統合防空ミサイル防衛と日米協力
近年の航空・ミサイル脅威の高まりに備え、米軍は統合防空ミサイル防衛(Integrated Air and Missile Defense: IAMD)構想を進めている。IAMDとは、航空機及びミサイル脅威に包括的に対処するもので、攻撃作戦(策源地攻撃)、積極防衛(攻撃発起後の敵航空機及びミサイルの破壊)、消極防衛(敵からの攻撃に対して、偽装や抗堪化などによって被害を局限すること)を一体化したものである(航空自衛隊教範02-1「航空作戦」27頁)。
IAMD構想では、米国が保有する対航空・ミサイル防衛アセットを統合して運用すると共に、同盟国・友好国のアセットをもIAMDに一体化させるための国際的な取組みが強調されることから(「米国におけるIAMD(統合防空ミサイル防衛)に関する取組み」『防衛研究所紀要』第20巻第1号(2017年12月)37頁)、我が国の反撃能力もこの構想に組み込まれることは必至である。
このIAMDを米国自身の問題及び国際問題の両面から分析したのが、防衛省・自衛隊のシンクタンクである防衛研究所がまとめた部内研究報告書「米国におけるIAMD(統合防空ミサイル防衛)に関する取組み」(【資料4】)である。なお特別研究とは、内局及び統幕等の要請を受け、防衛政策の立案及び遂行に寄与することを目的に実施する調査研究をいう(平成11年防衛研究所達第1号「防衛研究所の調査研究に関する達」)。
同研究報告書からIAMDにおける日米協力の具体的な取組はどのようなものになるかを分析した箇所を抜粋した。
敵に関する情報収集項目 「集団的自衛権行使ができることで可能となった日米の情報交換」の対象として「攻撃国に関する情報」が挙げられている。
この情報について作戦レベルでの具体的な項目を列挙しているのが、作戦情報に関する基本的事項を記述した「情報教範」(海上自衛隊教範第211号)である。このうち「第2章 情報の対象」から敵に関する情報を記述した箇所を抜粋した。
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反撃能力(敵基地攻撃)は平時から行使できる―政府部内資料から得た結論
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