(赤線部2022年8月27日修正)
アムネスティ・インターナショナル(以下「アムネスティ」)がウクライナ側の戦時国際法(国際人道法)違反を指摘(Ukraine: Ukrainian fighting tactics endanger civilians)したのに対して、ウクライナ側は猛反発、我が国メディアもウクライナの国際法違反については触れるのは「タブー」と化しているかのようで、敢えて見過ごすか(3月2日(水)配信「ニュースの背景:ロシア兵捕虜の映像公開はジュネーブ条約違反」)、触れたとしても同国に同情的な態度を取った報道(「ウクライナ戦術、民間人危険」 疑問や批判の声も アムネスティ報告)に終始している。
メディアがウクライナの国際法違反に同情的な態度を取る理由は何か?それを示唆したコラム「『どちらも悪い』の落とし穴」が、8月20日付『讀賣』夕刊第4版第8面に掲載されている。
同コラムは、ウクライナの国際法違反を指摘することは、ロシアの開戦責任を相対化させ、同国の戦争責任を曖昧にするとの主張からアムネスティ報告を批判している。
日々のニュースでウクライナの悲惨な状況を目にする一般市民であればこの主張に同調することであろう。
しかし国際法の基本に立ち返れば、この主張に誤りがあることは明白だ。
戦争に関する国際法規には、武力行使の合法性を定めるもの(jus ad bellum:ユスアドベルム)と、戦争(紛争)発生後の武力行使について制限を加えるもの(jus in bello:ユスインベロ)に大別される。
ユスアドベルムは、国際連合憲章が規律しており、ロシアの侵略が同憲章に違反することは明白である。
一方でユスインベロ(国際人道法、武力紛争法又は戦時国際法とも呼称される)は、武力紛争発生後に適用される法規で、敵対行為を規律し、そして武力紛争による犠牲者を保護することを目的とする〔(資料番号:19.11.19-1)「国際人道法のいろは~わかりやすい国際人道法~」(2014年 監修:赤十字国際委員会(ICRC)駐日事務所)6頁〕。
このためユスインベロは、侵略を受けた国であっても遵守しなければならない。それが結果的に自国民の保護につながるからである。
従ってユスアドベルムとユスインベロをごっちゃにして議論することの方が戦争責任を曖昧にしてしまうのである。なぜなら戦争責任には、戦争を発生させた責任と、戦争遂行上の責任(戦争の法規又は慣例の遵守)があり、後者についてはウクライナも責任を負うからである。
以上をウクライナ紛争に絡めて整理すると、ユスインベロでは露ウ共に違反が行われており(もちろんロシアの方が数と悪質さで圧倒的であるが)、ユスアドベルムではロシアが違反しており、ウクライナに落ち度はないということになる。
そしてユスアドベルムでのロシアの違反が、ユスインベロでのウクライナの違反を正当化させることにはならず、またユスインベロでのウクライナの違反がユスアドベルムでのロシアの違反を軽くさせることにはならない、ということを理解するべきである。
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軍事目標の国際法―空幹校教育資料『国際法規』より
〔小見出し〕
【軍事目標】
(1) 一般原則
(2) 軍事目標の定義
(3) 軍事目標の具体例
【文民及び民用物】
(1) 文民及び民用物の定義
ア 文民の定義
イ 民用物の定義
(2) 文民及び民用物に対する攻撃の禁止
ア 文民及び民用物の保護
イ 保護の範囲
ウ 区別の要求
エ 無差別攻撃の禁止
オ 防御側の義務
カ 巻き添えによる傷害と付随的な損傷
キ 攻撃の際の予防措置
(3) 特に保護すべきもの
ア 衛生施設
イ 文化財及び礼拝所
ウ 文民たる住民の生存に不可欠なもの
エ 自然環境
オ ダム、堤防及び原子力発電所
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