ニュース:「アムネスティが指摘したウ軍の国際法違反とは何か?」
- 軍事問題研究会編集
- 2022年8月7日
- 読了時間: 3分
メディアが判官贔屓から、「露『悪』vsウクライナ『善』」という構図で報道を続けているため、ウクライナ軍の国際法違反が報じられることがない。
本会は、「ニュースの背景:ロシア兵捕虜の映像公開はジュネーブ条約違反」(3月2日(水)配信)を報じているが、こうした指摘をメディアがすることはほとんどない。
ここにきてアムネスティ・インターナショナル(以下「アムネスティ」)がウクライナ側の戦時国際法(国際人道法)違反を指摘しているが(Ukraine: Ukrainian fighting tactics endanger civilians)、我が国メディアは何が違反なのかを理解していないようなのでその点を解説したい。
アムネスティが指摘するウクライナ側の違反は、主に①学校や病院に軍事基地を設けている②一般住民の密集地から攻撃を行っている、という2点だ。
ウクライナも加入しているジュネーブ条約第1追加議定書は、「いかなる場合にも、軍事目標を攻撃から保護することを企図して医療組織を利用してはならない」(第12条)と定めており、病院に軍事基地を設けることは明らかにこの条文に違反する。
また②の問題に関して同議定書は、「紛争当事者は、文民たる住民及び民用物を尊重し及び保護することを確保するため、文民たる住民と戦闘員とを、また、民用物と軍事目標とを常に区別し、及び軍事目標のみを軍事行動の対象とする」条)と定めている。
これに従い、平時において軍事施設を建設する立案者は、同条項の要請に留意しなければならない(注1)。これは要するに、住民の生活圏に軍事施設を置かない配慮を加入国に求めているわけである。その趣旨は、武力紛争法上、合法的な攻撃対象が軍事目標(戦闘員及び軍用物)に限られている一方で、巻き添えによる住民の被害及び民用物の損傷もまた、武力紛争法上は認められているため(注2)、民間の巻き添え被害を極力避けることにある。
②に関するウクライナ軍の違反は、日本も他人事でない。
現在、中国の脅威に対抗して、南西地域への自衛隊の配備が着々と進行しているが、民用物と軍事目標の分離への配慮が行われていたのか甚だ疑問であるからだ。
例えば2016年に沿岸監視隊が配備された与那国島は、面積28.96㎢、周囲27.49㎞、東西12㎞、南北4㎞という小さな島だ。近い将来、地対艦ミサイル部隊も配備されることであろう。仮に有事にそうした部隊が島内に展開すれば、軍民の区別は困難だ。ウクライナ軍と同様な行動を自衛隊が取るおそれがあるのだ。 (注1) (資料番号:14.8.26-1)「国際法規」(航空自衛隊幹部学校 承認年月日:2005年 7月21日)71頁。
(注2) (資料番号:14.8.26-1)72頁。
【関連バックナンバー】
日本における軍民分離の問題について取り上げているのが第664号、国際法上の軍事目標の一般原則を解説したのが第688号です。
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陸自の対中脅威認識
米国のAirSea Battle構想と陸自の危機感―海空重視論への反論
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軍事目標の国際法―空幹校教育資料『国際法規』より
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【軍事目標】
(1) 一般原則
(2) 軍事目標の定義
(3) 軍事目標の具体例
【文民及び民用物】
(1) 文民及び民用物の定義
ア 文民の定義
イ 民用物の定義
(2) 文民及び民用物に対する攻撃の禁止
ア 文民及び民用物の保護
イ 保護の範囲
ウ 区別の要求
エ 無差別攻撃の禁止
オ 防御側の義務
カ 巻き添えによる傷害と付随的な損傷
キ 攻撃の際の予防措置
(3) 特に保護すべきもの
ア 衛生施設
イ 文化財及び礼拝所
ウ 文民たる住民の生存に不可欠なもの
エ 自然環境
オ ダム、堤防及び原子力発電所
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