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ニュースの背景:ウクライナ紛争の「停戦ライン」―元防衛審議官の論考

軍事問題研究会編集

 ウクライナ紛争は終結に向けての糸口が一向に見出せない。

 この冬に向けてエネルギー不足や食料不足を巡り、ウクライナを支援する西側諸国の結束は乱れることになろう。そうなればロシアを利するだけである。

 正義には反するが、今こそ現実を見据えた「出口」戦略を議論すべきであろう。

 そこで焦点となるのが、「停戦ライン」をどこにするのかという問題だ。

 当然のことながら、露軍の侵攻開始―2月24日―以前の状態に戻ることが望ましいが、ロシアが自主的に撤退することは期待できないし、ウクライナ軍が力で押し戻す可能性も低い。

 そこで真部 朗 元防衛審議官が発表した、現実的な停戦ラインは何処になるのかという論考(ロシアの「特別軍事作戦」について)が参考になるので紹介したい。

 マスコミでは、ウ軍への判官贔屓から、ウ軍の反転攻勢が開始され、露軍をウクライナから駆逐するかのごとく分析に値しない「願望」が盛んに報じられている。これに対して同氏は、例えば「(露軍の)攻撃レベルの低下は、むしろ、南部でのウクライナ軍の大規模攻勢に対応してロシア軍が南部占領地防衛のための大幅な部隊配置の転換を進めていることによるもの」と分析している。

 またその他の分析を含め、「ロシア軍の継戦能力が今後短期間で尽きることは考え難く、少なくとも数年間は、現在レベルの戦闘を続けることが可能と考えられる」と戦争の長期化を予測している。

 こうした状況下で論考は、ロシア側の「停戦ライン」が①クリミア及びドンバス地方(クリミアとドンバス地方を結ぶ回廊部分を含む)のロシアへの割譲②ロシアによるウクライナのNATO及びEU加盟の容認、であるとしている。

 このラインは、国際法を無視したロシアに侵略の果実を与える、正義に反する結果と言えるかもしれない。

 しかし、戦略を「自己のもつ手段の限界に見あった次目標の水準をさげる政治的英知である」(永井 陽之助「現代と戦略」(文藝春秋 昭和60年8月30日第6刷)328頁)と理解すれば、「支援疲れ」した西側諸国が求める「出口戦略」の「落とし所」となるのではなかろうか。


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